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闇が満ちるまで 1







───赤く赤く煌めくふたつの目。

夢の記憶はあやふやなものだが、その鮮やかな赤だけはよく憶えている。
瞼の裏に焼き付いて消えないほどに。

そしてそれは現実だと心が咆哮している。












とある盛んな都。

商店街独特の喧騒を浴びつつも人混みをうまい具合に避ける青年がひとり。

ゴン族ほどではないがジン族にしては背高い方の彼はあちこちに目を走らせていた。何かを探すように。
やや長めの白銀髪から覗く目は薄青で、通り過ぎる女たちが思わず見惚れてしまうぐらいには精悍に整った容貌だ。
時折ゴンやジン族の女が彼に誘いを仕掛けるが、にこやかに話を交わしたかと思うと最後には残念そうな顔をして彼から離れていった。
どのぐらいあちこちをうろついていただろう、数時間ほどして彼は深い溜息を吐く。

───今日は見つけれなかった。

落胆した彼はすっかり暗くなってしまった空を見上げ、切なげに眉をひそめる。

───早く見つけたい。
こんなにも君を求めている。
心が体が叫んでいる、君を早く見つけ抱きしめたいと。













───彼は狩人だった。
山に囲まれた村に産まれ、尚耶(なおや)という名を授かり、口煩くも良き両親、優しくて可愛い幼馴染、陽気な村人達が彼の世界だった。
この村で幼馴染と近いうちに夫婦となり、子供に狩りを教え、穏やかで幸せな生活を送り、ここに骨を埋めると思っていた。
いや、そう確信していた。

だがそれはある日、突如に崩れてしまった。

武人だという男がひとりやってきた。
訪問自体はそんなに珍しいことではないが、その武人が問題だった。
どうしようもなく女好きで手癖が良くなかったのだ。
幼馴染は村一番の美人と言われるほど可愛らしく、当然ながら武人の目に止まってしまった。
武人はゴン族の男らしく大きく立派な体格で、その怪力に逆らえる者はそういない。ましてや女なら尚更。

その時間帯はタイミング悪くも、尚耶や働き盛りの男たちはいつもの狩りや商売に出かけていた。
警備団は数人居たが、武人に対しては全くの無力だった。

だからこそ悲劇は避けられなかった。


尚耶が戻ってきた時には何かも終わった後で、武人の姿はもう無かった。
家の前を囲む村人達をかき分けて見えたのは、無残な姿となった両親と幼馴染。
嫌な予感はしていた、村についてからずっと周囲が悲しそうにこちらを見つめていたからだ。
それでもあまりにも酷い有り様に言葉が出なかった。誰もがそうだった。

「……っ…」

父が微かに身動きし、呆然としていた尚耶はハッとしてすぐにそばで膝をついた。
こちらへ向けられてきた手を握ると震えていた。どちらの震えかはわからない、どちらもだったかもしれない。

「……な…おや…」
「親父っ!」

かすれ声を絞り出した父の瞼は腫れ上がり、顔全体も誰だか分からないほどに変形し赤黒く染まってしまっていた。

「…す…ま……ん…」

その言葉に尚耶はただ首を縦に振り、顔を歪ませるしか出来なかった。
カクン、と握った手から力が抜け落ちた。

尚耶は涙すらこぼせず、ただただその場で膝をついたまま俯いていた。
村人達も悲しみに暮れながら、しばらくそのまま見守ってくれた。


後になって、尚耶は包帯だらけの警備から謝罪と共に起きた事を聞いた。

大男の武人は幼馴染に手を出そうとしたが、ちょうどそばにいた尚耶の母がなるべくやんわりと手を退かして断った。
それでも短気な武人はキレて、母の頬に向けて拳を振りかざした。
幼馴染の悲鳴が響き、目の前の家の中からすぐに父が駆けつけてきた。
何をするんだと怒鳴る父に、武人は容赦なくまた拳を振るった。
警備のひとりが駆けつけて来た時にはもう父はかなりのボロボロで、それでも何とか立ちながら母と幼馴染を背中にして守っていた。
しかし武人も諦めずに腕を掴んできた警備をぶん回して離し、父を更に殴り飛ばして退かした。
頬をひどく腫らした母は勇敢にも武人を睨みつけながら、前に出ようとする幼馴染を背中に回した。幼馴染の体は恐怖に震えていた。
そんなふたりが気に食わなかったのだろう、武人は父にしたように何度も何度も殴ったり蹴ったりした。ふたりが動かなくなるまでずっと。
村人の何人かが武器を持って止めようとしていたが、軽々と受け止められたりして全く歯が立たなかった。


全て聞いた尚耶は苦しげに眉を寄せながら、そこでやっと涙をこぼした。


葬式を終えてひと月ほど経ち、尚耶は村から出て山を越えようとしていた。
幾度も自分に問いかけて決めた道だ。

───復讐したい。
なら、強くならねばならない。
武人は普通の人とは違う、自身を鍛えないと敵わないかもしれない。
それに人を殺すということは罪だ。相手が何者であっても。
その重さを背負っていけるだろうか。

だが、それでも───…仇をうちたい。

尚耶は腕の立つ狩人で頭の回転も早く、仲間達に慕われていたぐらいだ。
だからこそ復讐は簡単に果たせるものでは無いと今の己の力量を理解していた。相手が武人なら尚更だ。
村を出て己を鍛えたいと、まず村長へ挨拶した。村長はわかっていたかのように頷き、いくつか荷を尚耶に持たせた。

「止めはしない。むしろとっちめてやれ」

村人達も窓から見守っており、同意するように大きく頷いてくれた。

「銃撃士門派への紹介状も書いておいた。旧友がそこにいる、お前に良くしてくれるだろう」
「あ……ありがとうございます…!」

そうして尚耶は村人達の暖かい見送りを背中に、村を発ったのだ。





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